相続放棄の熟慮期間とは何か

文責:弁護士 井川卓磨

最終更新日:2024年10月17日

1 相続放棄の熟慮期間

 相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所への申述によってなされます(民法第938条)が、この相続放棄の申述は、自己のために相続開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(民法第915条第1項)。

 この期間のことを、相続放棄の熟慮期間といいます。

 ここでの、「自己のために相続開始があったことを知った時」とは、①相続開始の原因事実を知り、②そのために自己が相続人になったことを知った時とされています。

 例えば、祖父Aが亡くなった後、祖父の子である父Bが相続放棄をする前に亡くなり、父Bには子供であるCがいた場合、Cが祖父Aの相続放棄をすることができる期間はいつまでになるのでしょうか。

 Cが、祖父Aが亡くなったと同時に祖父Aの死亡を知ったとしても、父Bが存命であれば自分は相続人ではないため、「自己が相続人になったことを知った時」とはいえません。

 一方で、Cが、父Bが亡くなったと同時に父Bの死亡を知った場合には、祖父Aの相続についても自己が相続人になったことを知ったといえます。

 したがって、Cが祖父Aの相続について相続放棄をすることができるのは、父Bが亡くなった時の翌日(初日は不算入となります)から3か月間となります。

2 熟慮期間の例外

 相続放棄の熟慮期間を厳格に適用すると、不都合が生じるときがあります。

 例えば、相続人が、被相続人の相続開始を知っていたものの、被相続人には多額の借金は無いものと考えていたため、熟慮期間を経過してしまった場合、相続放棄を一切することができなくなるのでしょうか。

 この点、最高裁の判例(昭和59年4月27日第二小法廷判決)では以下の3要件を充たす場合には、熟慮期間経過後であっても相続放棄ができると認められました。

 

 ①相続人が、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたこと

 ②相続人に対して、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があること

 ③相続人が、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたことについて相当な理由があること

 

 相続開始後3か月経過後に相続放棄を行う場合には、上記最高裁判決の3要件を充足するかを検討のうえで、相続放棄の申述を行うことになります。

3 熟慮期間の伸長

 3か月の熟慮期間中に、相続放棄するかどうかの決断がつかない場合、熟慮期間中に家庭裁判所に期間伸長の申立てを行い、家庭裁判所から審判を得られれば、熟慮期間を伸長することができます(民法915条第1項)。

 伸長の期間や回数については特に制限はなく、家庭裁判所が申立ての都度、裁量によって期間を決することになります。

 相続放棄を行うには専門的な法律知識が必要になりますので、相続放棄を検討されている場合には専門家に相談されることをおすすめします。

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